過去問では埋まらない分野
「金融犯罪」は、2026年度から銀行業務検定 法務3級の出題範囲に加わった分野です。実施団体の公式テキストでは銀行取引関連法の第14項目から第18項目として新規に追加され、その旨が注記されています。
過去に出題されたことがない項目なので、過去問を回すだけでは対策になりません。 一方でいずれも条文がはっきりしているため、法令に当たれば確実に押さえられる分野でもあります。ここでは5つの論点を条文ベースで整理します。試験の全体像は法務3級とはを参照してください。
横領罪と背任罪は「物の占有」で分かれる
まず押さえるのは、横領罪と背任罪の切り分けです。
| 横領罪 | 背任罪 | |
|---|---|---|
| 対象 | 自己の占有する他人の物 | 他人のためにその事務を処理する者の背信行為 |
| 損害の発生 | 要件ではない | 本人に財産上の損害を加えたことが要件 |
| 条文 | 刑法第252条・第253条 | 刑法第247条 |
支店長が自ら管理する現金を私的に流用すれば横領、回収の見込みがないと分かっていながら取引先の便宜を図って融資を実行し銀行に損害を与えれば背任、という整理になります。物を占有しているかどうかが分かれ目です。
なお横領罪は、後から穴埋めをしても成立します。所有者でなければできない処分をした時点で既遂になるためです。
法定刑は4段階で覚える
数字が問われやすいところです。条文の逐語は次のとおりです。
| 罪 | 法定刑 | 条文 |
|---|---|---|
| 遺失物等横領罪 | 1年以下の拘禁刑 又は 10万円以下の罰金若しくは科料 | 刑法第254条 |
| 背任罪 | 5年以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金 | 刑法第247条 |
| 単純横領罪 | 5年以下の拘禁刑(罰金刑の定めなし) | 刑法第252条 |
| 業務上横領罪 | 10年以下の拘禁刑(罰金刑の定めなし) | 刑法第253条 |
| 特別背任罪 | 10年以下の拘禁刑 若しくは 1,000万円以下の罰金 又は併科 | 会社法第960条 |
🔴 横領罪と業務上横領罪には罰金刑がありません。 背任罪には50万円以下の罰金があるので、ここが引っかけになります。
🔴 2022年の改正で懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されました(2025年6月1日施行)。古い教材は「懲役」と書いたままのことがあるので、条文の表記に合わせて覚えてください。
特別背任罪は主体が限定される
特別背任罪(会社法第960条)は、背任罪の加重類型です。主体は条文が列挙する者に限られ、発起人、設立時取締役・設立時監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、支配人などが該当します。
単に会社と取引関係があるだけの社外の者は主体になりません。 会社の経営を託された者の背信を重く見る趣旨で、法定刑も背任罪の倍の重さに設定されています。
浮貸しは「地位の利用」と「利益を図る目的」
浮貸しは出資法第3条が禁じる行為です。条文が挙げる要件は次のとおりです。
- 金融機関の役員・職員その他の従業者であること
- その地位を利用すること
- 自己または当該金融機関以外の第三者の利益を図るためであること
- 金銭の貸付け・金銭の貸借の媒介・債務の保証をすること
金融機関に損害が生じたかどうかは要件ではありません。勤務時間の内外も問いません。銀行の審査を経た正規の融資は、銀行自身の取引なので浮貸しには当たりません。
⚠️ 同法第7条により、手形の割引や売渡担保も金銭の貸付けまたは貸借とみなされます。形を変えても規制を免れられない仕組みです。
法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科(同法第8条第3項)。ただし刑法に正条がある場合には適用されません(同条第4項)。背任罪などが成立する場合はそちらで処断されます。さらに同法第9条の両罰規定は第3条に係る部分を除いているため、浮貸しで法人が罰金刑を科されることはありません。
導入預金は「預金担保貸付」と別物
導入預金は、預金等に係る不当契約の取締に関する法律が禁じる行為です。構造は次のようになります。
- 預金者が特別の金銭上の利益を得る目的で
- 特定の第三者と通じ
- その預金に係る債権を担保として提供することなく
- 金融機関がその第三者に融資または債務の保証をすべき旨を約させる
🔴 自分の預金を担保に自分が借りる「預金担保貸付」とは全く別物です。 担保に取らないまま第三者に融資させる点が導入預金の中核で、ここが区別の要点になります。
処罰は預金者側(第4条)と金融機関の役員・職員側(第5条)の双方が対象で、法定刑はいずれも3年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、またはその併科です。
⚠️ 浮貸しの罰金が300万円、導入預金が30万円で一桁違います。拘禁刑はどちらも3年以下で同じなので、罰金額のほうで区別すると混ざりません。
条文が明確な分だけ、得点源にできる
金融犯罪の5論点は、いずれも条文の要件と法定刑がはっきりしています。範囲も限られており、銀行取引関連法18問のうち5問程度を占める見込みです。新論点は競合の教材が追いついていない部分でもあるので、先に押さえておくと差が付きます。
ぴよパスでは金融犯罪を独立したカテゴリとして練習問題を用意しています。
出典(条文はいずれも e-Gov 法令検索で 2026年4月1日時点の施行版を確認)
- 刑法(明治40年法律第45号)第247条・第252条・第253条・第254条
- 会社法(平成17年法律第86号)第960条
- 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和29年法律第195号)第3条・第7条・第8条・第9条
- 預金等に係る不当契約の取締に関する法律(昭和32年法律第136号)第2条〜第5条
- 銀行業務検定協会「2026年度実施『法務2級』『法務3級』『法務4級』科目構成の変更のご案内」






