QC検定2級の手法分野で、多くの人が最初に止まるのが検定と推定です。3級には無い項目なので、3級から上がってきた人にとっては完全な新規分野になります。
ここでつまずく形はだいたい決まっています。公式は覚えているのに、どの公式を使う場面か分からないという形です。公式を増やして解決しようとすると、覚える量だけが膨らんで正答率は上がりません。
必要なのは、問題文を読んだ直後に3つの判断を順番に済ませることです。
判断1:何について調べているのか
まずここが決まらないと何も始まりません。2級で問われる対象は次の4つに整理できます。
| 調べる対象 | 使う分布 |
|---|---|
| 母平均(母分散が既知) | 標準正規分布 |
| 母平均(母分散が未知) | t分布 |
| 1つの母分散 | χ²分布 |
| 2つの母分散の比 | F分布 |
この表を先に頭に入れておくと、公式の暗記量が減ります。 公式そのものは「推定値と基準値の差を、ばらつきの推定値で割る」という同じ形をしているからです。違うのは、割ったあとの値をどの分布表で読むかだけです。
なぜ母分散が未知だとt分布になるのか。母標準偏差σの代わりに、標本から求めた不偏分散Vを使うためです。Vそのものがばらついているので、標準正規分布より裾が厚い分布になります。自由度が大きくなるほどVの推定が安定するので、t分布は標準正規分布に近づきます。
判断2:母分散は既知か未知か
問題文のどこにその情報があるかを、探す癖をつけてください。
- 「母標準偏差はσ=2.0であることが分かっている」→ 既知
- 「n=9、x̄=56.2、不偏分散V=2.25であった」→ 未知(Vが出てきている時点で未知)
不偏分散や標本標準偏差が与えられていたら、それは母分散が未知だという合図です。実務ではほとんどの場合が未知なので、迷ったらt分布という当て方も外れにくいのですが、既知と書かれている問題は確実に取っておきたいところです。
計算の形は同じです。
- 既知:u=(x̄−μ0)÷(σ/√n)
- 未知:t=(x̄−μ0)÷√(V/n)
たとえばn=9、x̄=56.2、V=2.25、μ0=55.0なら、√(2.25÷9)=√0.25=0.5なので、t=(56.2−55.0)÷0.5=2.4です。あとは自由度8のt分布の限界値と比べるだけです。
判断3:対応があるかどうか
ここが2級でいちばん差がつきます。
同じ対象について、処理の前と後を測ったデータは「対応がある」データです。この場合は、2群の平均を比べるのではなく、対ごとの差d1〜dnという1組のデータを作って、その母平均が0かどうかを検定します。
| 対応なし(2群) | 対応あり | |
|---|---|---|
| 何を検定するか | 2つの母平均の差 | 差の母平均が0か |
| 自由度 | n1+n2−2(等分散を仮定) | n−1(nは対の数) |
| 個体差の扱い | 誤差に含まれる | 差をとる段階で消える |
対応のあるデータを、対応を無視して2群として検定すると、個体差がまるごと誤差の分散に入ります。 その結果、本当は効果があるのに有意にならない、ということが起こります。同じデータで判定が変わるので、データの取り方に合った手法を選ぶ必要があります。
問題文に「同じ作業者が」「同じロットから」「改善前と改善後で同一の設備を」といった言い回しがあれば、対応を疑ってください。
2つの母平均の差を検定する前にやること
2級では、母平均の差の検定の前に母分散の比の検定を行うという手順が出題されます。理由は、等分散とみなせるかどうかで使う統計量と自由度が変わるからです。
等分散とみなせる場合は、両群の情報をまとめた分散を使います。求め方は両群の平方和を合計し、自由度の合計で割るです。
不偏分散を単純平均してはいけません。 サンプル数が違う場合、単純平均では情報量の多い群が正しく反映されないからです。ここは選択肢に「2つの不偏分散を単純平均する」が並ぶ形でよく問われます。
母分散の比の検定自体は、F=大きいほうの不偏分散÷小さいほうの不偏分散を計算して、自由度の組合せに対応するF分布の上側限界値と比べるだけです。VA=8.0、VB=2.0ならF=4.0になります。
計数値の検定は「どの分布から出発したか」で決まる
計数値側も考え方は同じです。
| 対象 | もとの分布 | 検定 |
|---|---|---|
| 母不適合品率 | 二項分布 | 正規近似(npとn(1−p)がともに5程度以上) |
| 母不適合数 | ポアソン分布 | 正規近似 |
| 2つの分類の関連 | — | 分割表による検定(χ²分布) |
2つの母不適合品率の違いを検定するときは、帰無仮説のもとで両者が等しいので、まとめた不適合品率を使って標準誤差を計算します。A工程300個中12個、B工程200個中4個なら、(12+4)÷(300+200)=0.032です。
分割表の自由度は(行数−1)×(列数−1)です。3行4列なら2×3=6になります。期待度数は「該当する行の合計×列の合計÷総度数」で求めます。期待度数が小さいセルがあると近似が悪くなるので、区分をまとめるなどの対応を検討する、という論点まで出ます。
判定のあとにもう1段ある
2級で正答率が落ちるのは、計算問題より解釈を問う問題です。
- 有意差ありは「帰無仮説のもとではめったに起こらないことが起きた」という意味であって、差がある確率が95%だと証明されたわけではない
- 有意差なしは、差がないことの証明ではない(サンプル数が足りなければ有意にならない)
- 統計的に有意でも、その差が技術的・経済的に意味のある大きさとは限らない
- サンプル数を増やせば、ごく小さな差でも有意になる
だから検定で差ありと出たあとは、差の大きさを区間推定して、処置するかどうかを技術的に判断するという流れになります。差の信頼区間が0を含むかどうかは、対応する有意水準の検定の結果と一致します。区間推定と検定は表裏の関係です。
この解釈の問題は、公式を覚えても取れません。 一方で、一度筋道が通れば毎回取れる論点でもあります。
有意水準と誤りの関係
最後に、覚えるのではなく理解しておくと得な関係を一つ。
- 第1種の誤り(α):差がないのに差があると判断する(あわてものの誤り)
- 第2種の誤り(β):差があるのに差があるとは言えないと判断する(ぼんやりものの誤り)
- 検出力(1−β):本当に差があるときに、それを検出できる確率
サンプル数を変えずにαを小さくすると、βは大きくなります。 両方を同時に小さくする方法は、サンプル数を増やすことだけです。だからデータを取る前に、検出したい差の大きさとばらつきから必要なサンプル数を検討する、という手順が意味を持ちます。
片側検定が両側検定より有意になりやすいのも同じ話で、αを片側にまとめて配分するぶん境界が内側に来るからです。だからこそ、片側か両側かは結果を見る前に決めておく必要があります。
演習の順序
分野の中でも積み上げがあります。次の順で当たると詰まりにくくなります。
- 検定と推定の考え方(仮説、有意水準、2種類の誤り、信頼区間の意味)
- 計量値の検定と推定(1標本 → 2標本 → 対応あり)
- 計数値の検定と推定(不適合品率 → 不適合数 → 分割表)
QC検定2級の練習問題では、この3段をそれぞれ別の分野として25問ずつ用意しています。1番を飛ばして2番から入ると公式の暗記になるので、順に当たることをおすすめします。
なお、検定と推定は手法分野に入ります。2級は手法分野・実践分野それぞれで概ね50%以上という足切りがあるため、ここを空欄にしたまま実践分野で取り返す戦い方は成り立ちません。分野別の足切りの構造は3級の合格基準の記事にまとめてあり、2級でもそのまま当てはまります。











